bjノベルズ
『マニアック・ポリス×ポリス・マニア』
英田 大輔
【ACT 1-1】
熱い珈琲が秀和の舌を焼いた。彼は拳銃に弾を込める。彼の目は期待を隠せずに輝くばかりだ。彼は喉の奥で何事かを呟(つぶや)き、脳味噌から血を出してぶっ倒れるのではないかと誰かいたら心配するほどの気合いをそのままに立ち上がった。彼は制服を着た。やっと、警察官らしくなった。彼は、制服を着なければただの犯罪者だ。顎に無精髭を残し、目は印象悪く歪み、堅太りの体は馬をも殺せそうである。
彼は正義の名の下でなら殺人もできるという種類の人間である。つまり、かなり頭が悪いのだ。そんな男がレイプされたのである。このまま黙っているはずがない。法によって罪が裁かれるのを待つはずもない。殺すのだ。心臓を打ち抜いて、ペニスを踏み潰して。十個の爪を剥いでネックレスにでもするかもしれない。決して、冗談ではなく。秀和はそういう男だった。この世の中で、何が一番大事なのかと尋ねられたら、彼は、正義ですとか愛ですとか平和ですとか、答えるのだろうが、彼は自分が犯されればその相手を殺さなければ気が済まない男なのだ。それも、あんなにまで、快楽を感じてしまったのである。誇りに賭けて犯人を殺そうとするだろう。
昨夜十時頃、彼は、カラカラと鳴る自転車でお決まりのコースを見回っていた。まず、公園、そして、病院の前を通り、デパートの駐輪場を通り過ぎた時、彼は何者かにアックス・ボンバーされたのだった。彼はドゥワーと声を上げ吹き飛ばされて思い切り頭を打ち付けた。頭を振り、犯人はどこに行ったのかと見回すと、今度は両腕を捻り(ねじ)上げられて後ろに回されてしまったのだ。彼はナンダコノヤローだとかテメエコロサレテエカなどと叫んでいたのだが、恐らく相手には、大した脅威ではなかったはずである。なぜなら、彼は、完全に抑え込まれて身動きが取れないでいたのだから。そのまま、デパートの真っ暗闇の非常階段の下に引き摺られていった。
そこは本当の暗闇だった。何も見えなかった。子供の頃の記憶が蘇(よみがえ)る。夜、山道に迷い、自分よりも遥かに強いものに命を握られているのだと気付いたときの、あの感覚。彼は目隠しされた。続いて、何か堅いもので(後で見たら、それは、駐輪場を囲む白いロープだった)手首を縛られていたのだ。暗闇の中で目隠しをされた人は何者も従順になる。彼は、黙れ、喋るなと言葉を与えられた。彼にとってはその言葉だけが、どこかにふっ飛びそうな自分を繋(つな)ぎ止める碇(いかり)だったのだ。恐らく、耳の中に蜂が入り込んでも彼は声を上げなかっただろう。彼は臆病者なのだ。今まで、まるで、レイプ犯に与えられた一言のように彼は正義を自分の規則にして、自分の気弱さに目を向けずにいたのだ。彼の正義など肉体の奥から染み出たものではないのだから、まるで、曖昧(あいまい)なのである。
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2011 TERRA
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