いやぁゲイムービーってホントにすばらしいですねぇ第16回
オトナのための「泣けるゲイムービィ」
2003/08/06(水) 配信

 2003年は、オトナの映画好きゲイにとっては、当たり年です。「8人の女たち」、「めぐりあう時間たち」、「トーク・トゥ・ハー」、「エデンより彼方に」…どれもいろんな映画祭で賞を総ナメにしたり、各紙で大絶賛を受けている、素晴らしくハイクオリティな映画。しかも、どの作品も、監督がゲイなんです。スゴイでしょう? うそみたいなホントの話です。
 今月は、そんなオトナのためのゲイムービィで現在公開中の「トーク・トゥ・ハー」と「エデンより彼方に」をご紹介。たぶん、僕らって、一般の観客よりも、シンクロ率が高いというか、監督さんの伝えたいことが2倍よくわかると思うのです。それってとてもシアワセなこと。なので、ふだんそういう、芸術の薫り高いタイプの映画を観ないような人も、ぜひご覧ください。きっと胸に迫るものがあるハズ。
●「トーク・トゥ・ハー」
 ペドロ・アルモドバルは、「神経衰弱ぎりぎりの女たち」「欲望の法則」「アタメ」「キカ」などを撮り、アントニオ・バンデラスを世に送り出した監督(絶対寝てるハズ 笑)。濃くて過剰でヘンタイでキッチュでドタバタで、それでいてすごくセンスがよくて…。僕は大好きです。
 「トーク・トゥ・ハー」は、そんなアルモドバル節がほどよく洗練され、普遍性を獲得した、極上の愛の物語。おすぎが「100年分の涙を流しました」と言ってるのは、ウソじゃありません。僕は観終わったあと、自分の意志とは無関係に体の奥からじわじわと涙が湧いてくるという、すごい体験をしました(クスリはキメてませんよ、ちなみに)
 いろんな雑誌でも取り上げられているので詳しく書きませんが、一言で言うと、ともに昏睡状態の女性を愛するベニグノとマルコという二人の男性のお話です。ベニグノはプロの介護士で、眠り続けるバレエダンサーを美しくメイクを施したり、華麗な手さばきでマッサージをしたり、過剰なほどに彼女を愛します。マルコはちょっとしたことですぐ感傷的になり、泣いてしまう男(僕みたい…苦笑)。愛するのが女性だという点をのぞけば、ありようはゲイ以外の何者でもない、そんな二人の間に友情が芽生えるのは必然でしょう。終盤、マルコは初めて、女性のためではなく、大事な友人のために大粒の涙を流します。ラストシーンの繊細な表現にも注目。
 ピナ・バウシュの舞踊も、カエタノ・ヴェローゾの歌も、「縮みゆく恋人」というサイレント映画の挿入も、この映画を形作っているシーンの1つ1つがどれもこれも素晴らしい。だけど、いちばん素晴らしいのは、世間の規範からはちょっと外れてるかもしれないけど最も深く人を愛することのできる人間が、最も魅力的な人間として、あたたかな眼差しで描かれていることでしょう。
 報われない恋に泣いたことのある人、大事な人を亡くしたことのある人、孤独の意味を知りながら前向きに明るく生きる人、奇蹟を信じる人は、ゼッタイに観るべきです。
「トーク・トゥ・ハー」
2002スペイン/ギャガ・コミュニケーションズ/監督:ペドロ・アルモドバル
http://www.gaga.ne.jp/talktoher/(PC版)
●「エデンより彼方に」
 「エデンより彼方に」は、いわゆるテクニカラー(総天然色)や、50年代風の衣装やセットを再現し、昔のメロドラマを用意周到に再現したパロディ映画で(知ってる人は笑えます)、そういう意味では、女だらけの密室劇ミュージカル「8人の女たち」と同様なのですが、それは偶然ではありません。フランソワ・オゾンもトッド・ヘインズも、50年代アメリカのメロドラマの旗手、ダグラス・サークを愛し、彼にオマージュを捧げているのです。この映画の元ネタになっているダグラス・サークの「天はすべて許し給う」は、裕福な未亡人と庭師の身分違いの恋を描いた作品ですが、この映画で貧しい庭師を演じたのが、隠れゲイとして有名だったロック・ハドソン。今回、主人公の夫がゲイだったというお話なのは、そういう意味もあるようです。
 僕がこの映画を観てビックリしたのは、50年代の黒人差別がいかに激しいものだったかということ。白人にちょっと触れただけで「ヘイ、ユー。お前の汚い手を離せ!」とオーバーに怒鳴られ、黒人の男の子が一瞬プールに入っただけでその場にいた客が全員、プールからサッと引き上げる。何不自由ない生活を送る美貌の主婦(ジュリアン・ムーア)は、そんな黒人でも親しく話すし、一緒に食事までする。でもそれが街中の噂になり、悲劇が訪れます…。一方で、主人公のダンナは、ゲイに目覚めて精神病院通ったりするんだけど(滑稽に描かれています)、結局彼はブルジョアの白人男性だから、社会的地位は維持されるし、街を追われることもないのです。
 この映画、昔はこんなわけのわからん差別があったよね、バカみたいだねって思わせようとしてるハズなんだけど、実は、似たようなことって今でも平然とあるし、もしかしたら日比谷スカラ座(高級)で映画を観てる有閑マダムたちの中にも「世間体を気にするのなんて当たり前。いい暮らしをしたいんだったら我慢するべきよ」くらいに納得しちゃう人がいるんじゃないだろうか?って思えて、なんだか笑えなかったです。
 でもそんな、差別の根本みたいなものを気づかせようとする姿勢が作品の根底にあるからこそ、ジュリアン・ムーアが肌の色ではわからない人間の本質に触れようと前に進んでいく姿がけなげで泣けるし、彼女の深い悲しみを湛える天才的な演技とあいまって、胸に沁みるのです。
「エデンより彼方に」
2002米/ギャガ・コミュニケーションズ/監督:トッド・ヘインズ
http://www.gaga.ne.jp/eden/(PC版)


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